2024年からスタートさせた九州全県公演主題「毒にも薬にもならない音楽」も
いよいよ鹿児島公演を残すのみとなったオトウラ アオイ。念願叶った佐賀公演、宮崎公演の話を中心に、今後の活動にも触れたインタビューをお届けする。
------率直にお聞きますが、佐賀と宮崎でのライブはいかがでした?
オトウラ アオイ(以下、アオイ):思うところはありましたけど、やってよかったですよ。
------思うところと言いますと?
アオイ:イベントには色んな想いを抱いた人達が参加すると思うんですけど、佐賀に関しては僕が異端でした。もっとイベントの趣旨を確認して参加すれば良かったというのが正直な感想です。でも別に後悔しているわけじゃないです。出て良かったと思っています。
------佐賀は初出しの曲だけでセットリストを組まれていて、特別感がありました。
アオイ:楽曲として形にはなってるけど、ライブでは一回も歌ったことない曲ばかりになりましたね。地元ということもありましたけど、それ以上に沖縄公演での反省を活かして、同じ聴かせる系の楽曲でも変化をつけたいと思って。それでああいう形になりました。
------すべて「アキシロ」収録曲で、曲順にも沿ったセットリストだったのは狙ったんですか?
アオイ:いや、たまたまですよ。ハコに合いそうな曲を選んで。曲順に関しても、3曲があの曲順であることが一番しっくりきたのであの並びになりました。
------ふだんならMCでコミュニケーションをとって、曲に入っていくことが多いオトウラさんですが、佐賀ではMCというMCはありませんでした。それも印象的で。
アオイ:持ち時間と曲の長さの兼ね合いです。あれでいつも通りMCやってたら持ち時間をオーバーしちゃうから、曲を削るかMCを削るかで悩みましたけど、あえてMCを削りました。ぼくはMCを含めてライブだと思っているんですけど、MCのないライブもモノは試しに…とやってみました。改めてMCは必要だなと感じましたね。
------1曲でも多く聴いてほしいからMCはやらないっていう人もいますよね。
アオイ:そういう人はそういう人でいいんじゃないですか?ぼくはそれならサブスクで曲を垂れ流すのと同じだと思ってるから賛同できないですけど。ぼくとしては、曲数を減らしてもいいから、曲が聴いてくれる人の中に入り込みやすいように話をするし、
ぼく自身にも興味を持ってほしいからぼくの話もするし。あとはSNSフォローしてほしいこととか、CD買ってくださいとか。ぼくはそういうのをアピールする必要があると思ってるから出来るだけMCはやりますね。
------お父様に向けて歌われていた「null」は特に感情がこもっていました。佐賀で歌う事に意味のあるラストだったように思います。
アオイ:そこも偶然というか。元々「null」って父に向けて書いた歌詞じゃないし、「佐賀で歌うから」って父に向けて歌おうと考えてたわけじゃなくて。でもイントロが流れて「天国の父さんへ」ってふと口をついて出たんですよね。自分自身でもなんでそんなこと言ったんだろうと思いながら、歌詞をなぞるように歌って。そしたらどんどん父の事を思い出してきて、結果的に父への想いを乗せた歌になりました。
------最後のAメロの歌詞も変更して歌われていましたよね。あれはアドリブということですか?
アオイ:もうどう歌ったか覚えてないですけど、「会いたい」とか「声が聞きたい」とかそんな歌詞になってましたね。「何も思い出せないの」ってオリジナルのまま歌ったら「思い出せないのかよ」ってツッコまれそうだし(笑)。しっかり感情を入れることができたんでしょうね。見に来てくれた方にも「null」が一番良かったと褒めてもらいました。
------このツアーでは定番となっている「毒にも薬にもならない音楽」がセットリストから外れていたのにも意味があるんでしょうか。
アオイ:ハコに合わないなぁと思って。それに「毒にも薬にもならない音楽」と他の楽曲でセットリストが組めなかった。だから外しました。次にライブハウスでやれるときは組み込みたいと思っています。
------軽く触れていましたが、5月にも佐賀でライブをする予定があるということでしたね。
アオイ:そうなんです。あくまで予定だから出られるかどうかは未定なんですけどね。
それに、出られたとしても「毒にも~」は歌わないかもしれない。持ち時間が短いとこの曲は組み込みにくくて。出られるよう動きますので、とりあえず楽しみにしていてほしいです。ハコも変わると思うので、それに合わせて全く違うセットリストにします。
3月に見に来てくれた人にも楽しめるものになります。
------それはとても楽しみです。宮崎のほうはいかがでした?
アオイ:遠かったです(即答)。
------ライブの感想の前にそれですか(笑)。
アオイ:そりゃそうですよ。行きは高速使いましたけど、4時間はかかりましたからね。
途中トイレ休憩を入れたとはいえ、ずっと運転するのは疲れました。帰りは下道で7時間半くらいかかったかな?
------ご苦労様でした。
アオイ:まだ鹿児島公演が残ってますからね。ちょっと滅入りそうです。…というのは半分冗談なんですけど、運転中ずっと歌ってたからかな?意外とあっという間のような感覚もありました。かと言って仕事が終わってからの移動はなるべく避けたいですね。
------初のストリートライブということで勝手が違ったんじゃないですか?
アオイ:もちろん。ライブハウスやライブバーに足を運んで下さる方々は、聴きに来てくれている人達じゃないですか。いわば聴くことに能動的で。それに比べてストリートライブは、事前に告知しているとはいえ、他の用事があったりたまたま耳にするだけの受動的な人達なわけで、そこと向き合うには心持ちが全然違ってきます。機材も違えば、照明もなくステージもない。そこでいかに自分の世界に引きずり込めるのか。己の歌心や魅せる力が試されたイベントになりました。
------とは言え、足を止めてくれる人も多かったのですよね?
アオイ:そうですね。トータルで見たら15人いるかいないかくらい。綺麗事だと思うかもしれませんけど人数じゃないんですよ。ひとりでもふたりでも、心に残ってくれたらそれでいい。でもぼくは欲張りだから、その数が多いに越したことはない。でもほんと、誰も見向きもしない可能性も十分にあると覚悟していたから、ほんの少しでも、聴いてくれた人には感謝しかないです。駅前だからさベンチもあればお店もあるし、暇つぶししようと思えば別の場所でもいいわけで。それでも足を止めて聴いてくれたっていうのは嬉しいです。中には自転車を置いて戻ってきてくれた男の子達もいたんですよ。それも嬉しかったなぁ…。持ち時間が終わった後話しかけたんですけどね、いつもはぼくが歌うような曲は聴かないらしくて。そんなこと言われたら尚更嬉しいじゃないですか。今も思い出して嬉しくなるくらい嬉しいです。
------お顔が緩み切っています(笑)。それだけ手応えがあるとまた宮崎に行きたいという気持ちや、ストリートライブをしたいという気持ちになったのでは?
アオイ:それはもちろん、そうなりました。ストリートライブについて、さっきはデメリットについてしか話してないですけど、不特定多数の人が聴いてくれるというのは良いことだし、聴くつもりのなかった人を引き込むというのは、ライブハウスでもストリートでもそう違いはないですね。音響設備が不十分とか、照明がないのは誤魔化しが効かないからやっぱりマイナスに感じますけど…。あと、遠い遠いと言いましたけど、宮崎にはまた行きたいです。最悪ライブじゃなくてもいい。ただただ宮崎に行きたい。MCでも言ったんですけどね、宮崎大好きなんですよ。小学生の時だけど3年間住んでたので他県と比べても思い入れがあります。宮崎駅周辺に住んでいたこともあって、大人になって歌いに行けたことは個人的にエモいです。
------ライブ以外も楽しめましたか?
アオイ:ええ、とても。ずっと行きたかったおぐらの本店は店休日で行けなかったけど、本店じゃない方でチキン南蛮を食べられましたし。そうそう、母校にも行きましたよ。ほんとは中の様子も見たかったけど、時間帯が厳しくて入れず…。こう聞くとタイミングが合わないことばかりでしたけど、当時の通学路をたどって歩いたり、当時住んでいた家を見に行ったり。あとは、初めてデートをしたミスタードーナツを見に行ってまだ残っていることに安心したり(笑)、書店や現地のレコード屋さんにも足を運んで楽しんでました。なにより、街を歩いていてもテレビをつけていても、宮崎訛りの話声が聞こえてくるのが幸せでした。
------ということはまた行くべきじゃないですか。
アオイ:うん。行きたいです。それで、欲を出せばあの周辺一帯を人で埋め尽くせるくらいにはなりたい。まぁ理想ですけど。でもね、ほんとはそれよりも、この前来てくれた人達がまた来てくれたらそれが一番嬉しいかも。そっちもかなり難しい気がしてるんですけど、なんだろ。来てくれそうな気がしてるんですよ。
------オトウラさんにしては楽観的な発言ですね。
アオイ:また来てくれるって信じたいだけかもしれませんね。今回「etude」で足を止めてくれる人が増えたと思っているんですけど、「etude」はぼくの歌声を活かしやすい曲だと思ってて。その次に歌った「やまない雨にうたれて」は僕の歌声が活かせる曲じゃないかもしれないけど、「死にたい」とか「消えたい」って言葉を受けて、ぼくなら何ができるだろうと思って書いた歌詞で。「etude」で足を止めた人達が、その想いをちゃんと心に残してくれたんじゃないかなって思ってるんです。だからまた会えそうな気がしてるし、会いたいなって。
------そういったノンフィクションな想いは、ラストを飾った「Rendezvous」でも強く表現されていそうです。
アオイ:情けないことに、疲れからか満足のいくステージングは見せられなかったと自覚してますけど、「いつか死ぬし、いつ死ぬか分からないから後悔しないで生きてほしい」「笑っていてほしい」って想いは伝えられたんじゃないかって思っています。
曲中でも言ってたんですよ、「笑っててね」って。そしたらうなずいてくれた子もいて。
宮崎のMCでも話した気がするんですけど、自分の為に歌ってる歌が、誰かの力になったり支えになれば、ぼくにも歌う意味があるというか。アーティスト冥利につきるじゃないですか。そういうメッセージもしっかり伝えてこれた手応えがあります。あぁそうだ。ストリートライブをして気づいたんですけど、ぼくの楽曲は学生さんとか若い子に刺さりやすいのかなって感じました。
------多感な時期の学生さんだからこそ、メッセージがまっすぐに刺さるのかもしれませんね。それにオトウラさんが大人だからこそ説得力のある言葉になっているのかもしれません。
アオイ:1回やっただけだから、次にやったときは全然違う結果になるかもしれませんけどね。だからってわけでもないですけど、違う時間帯や別の場所でもストリートライブをしてみたいです。する前は不安の方が強かったけどやって良かったし、これからもやってみたいなって思えました。このツアーで一番収穫が多かったのは間違いなく宮崎公演でしょうね。
------鹿児島公演に関してもお話を聞かせてください。オトウラさんは宮崎公演の少し前に鹿児島での共演者を募集されていました。共演者がいないとワンマンになるかも…ということでしたが、公演は実施されずに今に至ります。
アオイ:ずっと継続してライブをする場所を探しているんですけど、日程はいつでも大丈夫というハコが見つかったんですよ。だったら宮崎公演の次の日に鹿児島でライブができれば効率が良いなと思って、仮押さえしたんです。ただ、急な話だったのでハコのスタッフさん側だったり、ぼくのほうでも共演者を探していたんですけど見つけきれず。ワンマンをするという手段もあったんですけど、間違いなく充分な集客は見込めなくて。そんな状態で、ただ「ワンマンライブをした」という実績だけ作っても仕方ないじゃないですか。サブスクとかじゃなくて直接歌を聴いてほしい。来てもらうのは難しいから、ぼくが各地に会いに行く。それが九州全県を回ろうと思った一番の理由だから、聴きに来てくれる人がいなかったら成立しないんですよ、このツアーは。そんなわけで効率は悪くなりますけど、日を改めて鹿児島でライブができたらと思っています。
------このツアーが終わったら次の展開が待っているのでしょうか?
アオイ:はい。ツアーが終わってもライブ活動を辞める予定はないので、次のフェーズに進みます。かと言ってライブの本数は限られたものになるので、是非ひとつでも多くライブに参加してくれたらと思います。