インタビュー
2022年から活動を開始したオトウラアオイ。しかしそれは作品の制作に重きを置いたものであり、ライブ活動は行っていなかった。だが、彼のセルフライナーノーツを読んでみるとわかるように、実際は「ライブもやってみたい」という気持ちがあったことは明白だ。2023年に初めてライブハウスのイベントに出演したことで、ライブをしたいという欲が強くなったという彼は、今年に入り大胆な企画を打った。沖縄県以外ではあるが、九州全県でライブをするというものだ。現時点では福岡・熊本・大分の3県で敢行されているが、今後の活動や「ライブ」というものについて、彼に話を聞いてみた。
存在を知ってほしいし、曲を聴いてほしい
------ライブ活動を始めて、手応えはいかがですか?
オトウラアオイ(以下:アオイ):意外と好評です。今のところは。
------「意外と」という言葉を使われていますが、酷評されると思っていたんですか?
アオイ:思ってました。自分が楽しむためにつくってきた楽曲だったから、どんな感想を持たれるか怖かったし、ステージに立って歌うのはほぼほぼ初心者だったので、不安でいっぱいでした。
------でも、「好評」ということは、それなりに良い反応があったということですよね。
アオイ:どちらかと言うと、共演した演者さんや関係者の方から「良かったよ」って言ってもらうことが多いです。お世辞も含まれていると思うんですけど。お世辞でも「良い」と言わない人もいるから、「良い」と言ってもらえるだけありがたいです。
------演者さんではなく、お客さんからの反応はどうです?
アオイ:いや、これがもう全くダメで。
------あらあら。
アオイ:完全に僕の力不足です。歌だけじゃなく、様々な面で。
------歌だけじゃないというと?
アオイ:プロモーションとか。あとは、アピールしたい層にまで届いていないのが今の悩みです。
------アオイさんはご自身で「ヴィジュアル系」とおっしゃっていますが、今まで共演した方々を見ても、ヴィジュアル系と分類されるアーティストの方々はいらっしゃいませんよね。別のジャンルが好きなお客さんではなく、ヴィジュアル系のことが好きなお客さんにアピールしていきたいということでよろしいでしょうか。
アオイ:まさにその通りです。今、福岡など九州で活躍されているヴィジュアル系アーティストの方々や、全国で活躍されているヴィジュアル系アーティストの方々との共演がなくて…。そういった方々と共演させていただければ、少しはこの現状を打破できるんじゃないかなーと考えています。あ、唯一ご一緒させていただいたのは熊本の響さんだけですね。
------そういった方達と共演する機会はつくれそうにない?
アオイ:今のところないです。福岡県以外は特に。ヴィジュアル系として活動されている方がそもそも少なかったり、いなかったりするんで。それに福岡でライブをやるにしても、ブッキングマネージャーさんがヴィジュアル系バンドと(ブッキングを)組んでくれないし。
------条件とかルールみたいなものがあるんですかね。
アオイ:僕の活動形態がバンドじゃないことが、まず第一の問題なんだと思います。ヴィジュアル系でもソロのアーティストさんはいらっしゃいますけど、ライブではバンドスタイルなんですよ。そうなるとブッキングを組みにくいみたいです。弾き語り等のアコースティックスタイルでもなければ、バンドでもないから、「こいつどう扱えばいいんだ?」って状態。なので、今はジャンルレスの企画を打ってくださるライブハウスに出演させていただいています。
------いわゆるバンギャル・バンギャル男と呼ばれるヴィジュアル系を聴く人たちに、ジャンルレスのイベントを見に来てもらうか、普段ヴィジュアル系を聴かない人達に好きになってもらうしかないですね。
アオイ:そうなりますね。そもそもバンギャさんやギャ男さんに聴いてもらっても、好きになってもらえるかは分からないし、よりシビアな目で見られる可能性のほうが大きかったりはしますよ。でも、ジャンルとして耳に馴染んでる音楽の方が、耳を傾けてもらいやすいんじゃないかなっていう気もしてて。とにかくまずは存在を知ってほしいし、曲を聴いてほしいです。
------そうだ。今のオケを流して歌うスタイルではなく、バンド形態でライブをするという選択肢はないんですか。
アオイ:今のところは…ないです。バンド…バンドやりたいですよ。オトウラアオイ名義の曲でもいいし、別にバンドを組んでもいい。バンドは憧れです。バンドで表現できるならバンドでやってみたい。実際よく言われます。「歌も曲も良いんだからバンドで見てみたい」「バンドだったらもっと良さそうなのに勿体無い」って。だからバンドでステージに立ちたいですよ。でも、メンバーが見つからないです。楽器ができれば誰でもいいわけじゃないし。
------それはもちろんです。音楽性とかも重要でしょうし。
アオイ:うん。音楽に対するスタンスだったり、人としての考え方…つまり人間性も大事だったりしますし。難しいです。そうそう、ライブ活動を始めたことで、人との繋がりはできたんですよ。手を差し伸べてくださる方々が増えているので、そういった縁からいいメンバーとも巡り会えるかもしれないって思います。いずれはバンドだけではなく、アコースティックスタイルでも歌いたいんですよね。
------弾き語りみたいな感じですか?
アオイ:歌とアコギ、歌とピアノ…みたいな感じでもいいですね。僕は楽器を弾けないから、お願いしないといけませんけど(笑)。そういうのではなく、歌と、バイオリンとピアノ…とか。アコースティックというより、クラシカルな感じですかね。シドのマオさんがビルボードとかでやってたような感じ。しっとりとラグジュアリーな雰囲気で、お客さんも座ってて、お酒を飲みながら歌を楽しむ感じ。そういったライブもしてみたいです。
僕は歌だけの力で勝負できない
------ライブというよりコンサートに近いですね。そういえばライブバーでも歌ってみたいとおっしゃってましたよね。オトウラさんの楽曲はそういった場所でも映えると思うので、是非実現させてほしいです。九州全県ツアー「毒にも薬にもならない音楽」についても聞かせてください。3公演が終わっていますが、まだ足を運んでいない地域については、2024年下半期で実施されるんでしょうか。
アオイ:その予定です。長崎だけは10月に行うことが決まってて、佐賀もおそらく年内に実施できると思いますが、まだはっきり決まってるわけではないです。鹿児島と宮崎については、引き続き出演させていただける場所を探してるところです。
------九州全県ツアーを発表した時点で日程が決まっていたわけではないんですね。
アオイ:はい。どこかしら出演できる場所はあるだろうと甘く見ていました。オケを流しての歌唱ができないという理由で出演ができなかったり、ブッキングライブを行っていないという場所もあって。返事をいただけるだけマシなんですけど、返事すらなく無視されることも多かったりします。有名なアーティストではないので相手にしてもらえないのは仕方ないですけどね。
------しかしこのままでは企画倒れになってしまう。
アオイ:そうなんです。だから結構焦っていたりします。「うちでは出演させてあげられないけど、あそこならどうか聞いてごらん」というように、縁をつないで下さる優しい方々もいて、出演交渉含め問い合わせは続けていますが、依然厳しい状況なので…。最終手段としてはストリートライブを決行することになるかもしれません。
------いいですね、ストリートライブ。
アオイ:ストリートライブ自体は悪いことじゃないと思うんですけど、今回の趣旨としてはライブハウスかライブバーで歌うっていうことが重要で。
------そこにこだわる理由ってなんでしょう。
アオイ:照明の演出もこみこみでステージングを見せたいんですよ。僕は歌だけの力で勝負できないから。だから照明や音響の力を借りて、少しでも良いと思ってもらえるようにしたいんです。
------「歌だけの力では勝負できない」ですか。時折自虐的な発言が出ますね。
アオイ:僕の悪い癖ですね。でも、別に自虐のつもりで言ってるわけじゃなくて。純然たる事実なので。そこを認識した上で、どう戦っていくかなんですよ。「音楽で食べていきたい」というような、音楽に真剣な人たちと比べたら、僕なんか趣味で歌ってるわけで。覚悟もクオリティも全然違うんですけど、実はそういった人たちよりも、1回1回のライブでレベルをガンガン上げていかないといけなかったりもするんですよ。
------ふむ…。もう少し詳しくお願いします。
アオイ:音楽を生業としている方々とは、ライブをこなす本数が違いますよね?僕がひとつきに1本のイベントに出るとき、つきに4本のワンマンライブをして、合間でイベントにも出演するとかするわけですよ。そうなると踏んでいる場数も違うし、本数が多い分、実験もできるわけです。セトリの組み方とか、演出とか。例えばひとつき10本のライブをしたとして、レベルが10上がるとしたら、僕は1本のライブで、レベルを10上げなきゃいけない。ひとつずつクリアしていく課題も、僕は4つ・5つクリアしていかなきゃいけない。
------でも、趣味程度で活動されているんなら、プロの方々と張り合う必要もないし、ゆっくりひとつずつレベル上げしてもいいと思うんですよ。それじゃダメなんですか?
アオイ:ダメじゃないとは思うんですけど、嫌なんです。あくまで趣味の範囲でやってることですし、音楽でご飯を食べていきたいなんて本気で思ったりはしていません。でも、ステージに立ってお客さんに歌を聴いてもらうんだから、それはプロとかアマチュアとか関係ないと思うんですよね。それに舐められたくないっていうのが根底にあります。
------オトウラさんの口からそんな発言が出るとは意外です。
アオイ:そうですか?だって嫌だし悔しいですもん。お客さんにも関係者の人にも、舐められたくはないです。「良いじゃん!」って思ってもらいたいし、「前回より良くなってるね!」って思われたいし、言われたい。お客さんにも好きになってほしい。僕自身のことは嫌いでもいいけど、歌とか、曲はいいよねって思ってもらいたい。出来れば背中を押したり、切なさや悲しみを共有できたり、楽しんだりさせたい。じゃなきゃステージに立って歌う意味なんてないですから。
------独りよがりでよければヒトカラ行けばいいわけですしね。
アオイ:そうそう。最初に意外と評判いいって話をしましたけど、悔しい思いもちゃんとしてるんですよ。別の共演者さんは「すごい!」って絶賛されてたり、「才能ある!」って言われたりして、僕にはなんのコメントもないとか。正直、今思い出しただけでも腸煮えくり返ります(笑)。まあでも、お客さんにCD買ってもらえないとかのほうが100倍悔しいですけどね。くっそー、違ったかーって。
------私はオトウラさんの曲、いっぱい好きなのありますよ。
アオイ:ありがとうございます。そんなお客さんを増やしたいですね。知ってもらって、聞いてもらって、好きになってもらう。それで、いつかはワンマンライブもしたい。現時点では無理な話ですけど、ワンマンライブもしたり、たくさん好きになってくれる人が増えたら、憧れの人達とも対バンしたいし。余命宣告されているわけではないですけど、人間いつ死ぬかわかんないから、ちんたらやってる暇はないです。まずは、九州全県ツアーを成功させたいと思います。応援よろしくお願いします。
インタビュー:ラナ