
「アオハル」セルフライナーノーツ
「アオハル」について
早いもので季節を題材にしたシリーズもののEPも3作品目。
今回は「春」がテーマで、タイトルはベタに「アオハル」。「青春」を読み変えているだけじゃなくて、アオイが描くハルって意味もあったり。ていうか、あまり奇をてらいたくないって思ったのよね。パッと見で伝わりやすいものがいいかなって。
今回も収録曲の頭文字を繋げると「SPRING」(春)になる仕掛け。その縛りを作った上で、各曲のタイトルと歌詞、それぞれどういう曲調にするか決めていったよ。前作「アキシロ」は個人的に特に好きな一枚になったんだけど、全体的にミディアムテンポの曲が多かったせいか大人しくなりすぎた印象で。だから、次の一枚はライブで使いやすい曲を増やそうという意識で製作に取りかかったの。…と言いつつ出だしからバラードだし、ライブだけに特化した作品ってわけでもなくて。結果的にテンポは速い曲と、遅い曲が半々くらいになったかな?
コロナが広がる前のようなライブができるようになってきて、僕も去年初めてライブをして。これからもライブはやっていきたいなって思うから、徐々にライブ映えする曲を増やしていくね。まー、そもそもバラードとかミディアムテンポの曲が大好きだし、何も意識しないとそんな曲ばかり増えていくと思うし、極端にテンポの速い曲が増えていくとかはないと思うけど(笑)。バラードばっかりでも、Barとか場所によってはやれたりするかなー?あ、全然「アオハル」の話してないや。
春を絡めた歌詞以外に、実は裏テーマをつくってたの気づいた?実は各曲毎に違う楽器のソロが入ってるんだよ。例えば1曲目の「Secret Sign」はピアノソロが入ってる。他の曲もベースソロだったり、ギターソロ、ドラムソロもあるし、全部盛りの曲もあったり。
こういうのは単なる思いつきで深い意味はないんだけど、こういう縛りがあるのも面白いよね。僕はオーダーを出すだけだから、大変なのはそれを形にする作家さんたちなんだけどさ。作家さんたちに大きな拍手を!(パチパチパチ)
さて、次は「冬」をテーマにした作品。発売時期はテーマに合わあせているから、冬頃になるかなー。しばらく期間が空いちゃうけど、夏も秋も季節に関係なく「アオハル」を聴いてもらえると嬉しいな。では、ぼちぼち各曲の解説をお楽しみあれ~!
▲アオハル【配信版】ジャケット
1.Secret Sign
環境が変わることや、遠距離になることで別れを選ぶふたりの話から「アオハル」はスタートします。学生にありがちな話かなー。例えば、高校生の時は仲が良かったのに、進学や就職なんかで互いに異なる進路に進むことで距離ができて、新しい環境で身近な人同士でくっつくって話。そういう内容に春のテーマ「桜」を絡めて歌詞を書きました。過去のEP作品はひねくれたものが多かったから、ここはベタに。「アオハル」の入口になる曲だし、より分かりやすさを重視してみた。
別れる前提で付き合う人はいない(と思う)けど、遠距離恋愛になって別れた恋人たちの前例も知ってるし…という感じで、達観しているフリをしている主人公。説明するまでもなく未練タラタラ。あと、この歌詞で言うと、付き合っている段階で心の距離が出来始めているわけね。そうなるには何かきかけがあっただろうし、彼女からのサインもあっただろうし。それに気づくことができなかったという意味で、タイトルを「Secret Sign」(秘密の合図)にしました。慢心せず、相手の気持ちを考えたり、小さなサインも見逃さないように生きたいねって…あ、これミスチルだ。笑
楽曲面の話になるけど、僕にとって待望の阿部さんによる楽曲。切ないバラードになりました。阿部さんに制作を依頼したのは、1stアルバム「唯、碧く」ぶり。制作を休止されている時期があって。また制作を再開されたので、色々と考えて「Secret Sign」をお願いしました。リファレンスとして提示した楽曲はもっと光が感じられるものだったけど、この曲は歌詞が引き立つ切なさに全振りした曲になりました。耳に残りやすいめちゃくちゃ良い曲。
この曲も結構歌い回しを考えて練習したの。レコーディングの際は、多少ガイドメロディと違う歌い回しなったけど、曲の良さを伝えられるように頑張ったよ。あとは、Aメロの楽器の量をどうするか、いい塩梅を見つけるのに悩んだんだよね。1曲全体の流れを見て、阿部さんにも調整していただいて。めちゃくちゃ良い曲(2回目)。
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2.pastel
新年度に伴って、新居で生活が始まる人もいるよね。ってことで、やや強引な感じではあるけど、「新居での生活」を春のテーマとして書きました。ずっと書きたいなーと思ってた幽霊の女の子が主人公。事故物件に引っ越してきた男性との恋愛ものの歌詞になっています。余談だけど、事故物件に一回誰かが住んで特に何もなければ、次に入居者を募集するときは事故物件だったことを知らせる義務はなくなるのだとか。
さて、彼氏に裏切られて自殺してしまった女の子が、地縛霊として留まっているわけだけど、歌詞の通り何も出来ない。自分の存在をアピールしようとしても、ポルターガイストのような現象も起こせず、ただただ見つけているだけの状況。その状況をイラストにするとしたら、描き方によっては可愛く見えたり、怖く見えたり、どっちにも取れそうな感じがするよね。
女の子が自殺をした時に流した血は、業者の人がきれいにしてるんだけど、月日が流れていくうちに、世間から自分の存在が薄まっていく感じとか、男性に存在を気づいてもらえない透明な感じとかもあわせて、白色を含む淡いパステルカラーを指す「pastel」というタイトルにしてみた。
「死んでいるから」という意味と、「見込みがない」とか「期待できない」という意味でBメロの「脈もないのに」というワードを自分の中で『してやった感』がある。笑
同じ音でも、漢字や表記を変えたりすることで、別の意味を持たせることはよくやってたことではあるんだけど、文脈が変わることで意味が変化するという仕掛けは初めて…かな?言葉遊び楽しい。言葉遊びだらけでほとんど意味のないような歌詞も、いつかはチャレンジしてみたいなー。
曲調はジャジーでアップテンポなロック。ほんのり歌謡曲チックなメロディーも絡んできたりして、もう言うことなし。パーフェクト。ドツボな楽曲なの。「ナツメロ」収録の「MiSS MERMAID」はしっとり目のジャズ風ロックだったからね。こういう曲調でも歌いたいと思って。ライブではサビの部分で横モッシュのノリになるのかな。楽しんでもらえそう。僕も歌ってて楽しくて。レコーディングでもほぼ一発録り。微妙なニュアンスにこだわって、一部録り直したくらいで、わりとすんなり終わりました。「アオハル」、つづく3曲目もアップテンポに攻めますよ。
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3.RED
くしゃみって、2回続けてだと悪口、3回続けてだと噂とか言うよね。それを思い出して、『ゴシップ』というウイルスをバラ撒き、悪意に満ちさせて人の心を狂わせる少女型ロボットがいるというSF設定の歌詞を書いてみた。フィクションでもSFは初めての取り組みかな。歌詞を「ガール」ではなく「ガァル」にしているのは、レトロフューチャー感を出すためで、「ボォイ」ではないのは、歌う時の語感で「ガァル」の方がしっくり来たから。他意はないのでご了承ください。
噂とか、真相が分からなくても「らしいよ」ってだけで話が広まっていくよね。で、他人事なのに「それはよくない!」と自分の勝手な正義感で誹謗中傷をしたり。自分自身は名前も顔も隠した状態でそんなことしたって卑怯なのにさ。そういう人たちって知らない間に周りの流れに流されちゃってるんじゃないかなって。そういうふうに考えて「花粉症」というテーマと絡めて書いた歌詞にしてみたんだ。花粉症ってさ、去年まで大丈夫だったのに「今年から花粉症になりました」って言ってる人も少なくないんじゃない?無自覚に感染してるところがぺちゃくちゃと噂話することと似てるのかなって。
あ!あと、「感染ってます」っていうフレーズも使いたかったんだよね。分かる人にはすぐにわかると思うんだけど、僕の敬愛するシドの「循環」という曲のオマージュなの。楽曲の構成もオマージュ色強めだったりする。
「RED」はドラムソロを入れることをもうひとつのテーマにしていたんだけど、結果的にベースソロもギターソロも入ったアレンジに。楽曲としてはこの構成が大正解だと思ったので、結果オーライ。笑
この曲さ、特にバンドで再現できたら最高じゃない?ライブ映えするし、それぞれのパートに見せ場があるし。僕の無茶苦茶抽象的な要望でも汲み取って形にしていただけて大満足。ギターソロの部分とサビのどんどん盛り上がっていく感じとか特にオススメ。
僕の都合で、タイトなスケジュールでボーカルのレコーディングをしたんだけど、意外と難しかったのよね。勢いもないとダメだけど、実は歌い回しで細かく気にする部分がったり。思ったように歌えなくて悔しかったのよ。入れたくて入れたフレーズ「感染ってます」が一番難しく感じた。甘く見てたわ、とほほ。このフレーズ、ライブではどんなフリになるんだろ。楽しみだな。
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4.impression
今作の中では、実は一番最後に完成した曲。テーマは「新社会人」。会社に入社したてのフレッシュ感(新人感)がこのキラキラしたお洒落なアレンジで伝わればいいな、と。入社して素敵だと思った上司と不倫関係になる歌だから、厳密には入社したばかりの状況ではないんだけどさ。まぁまぁ、細かいことはお気になさらずに。笑
付き合いが深くなっていくと、良くも悪くも色んな面を知って、その人の人物像が最初の印象から変わっていくよねっていう意味でタイトルは「impression」に。タイトルを考えてから歌詞を書いた気がする。
さて、登場人物や情景が読み取りやすいような歌詞になっていると思うけど、どうかな?
例えば出だしのフレーズ。物件の売り文句として「駅近」とか「〇〇まで徒歩1分」とかあると思うけど、都心だと「東京タワーが見えます」的な売り文句もあったりするのかなって思って。そこから舞台設定は田舎ではなく都会だとか、ウィークリーマンションだから単身赴任なのかなとか、「夜の方がきれいに見えるんだよ」って言ってることから、「夜も遊びにおいでよ(泊まっていく?)」って誘ってるよねこの男!…とか読み取っていけるんじゃないかな、と。そんな感じで歌詞を紐解きながら聴くのもまた一興じゃないでしょうか。
楽曲面についてはね、「アキシロ」収録の「unravel」でシティポップの要素を取り入れたわけだけど、個人的に悔いが残る楽曲でもあって。もう一回チャレンジしてみたいなって気持ちで取り組んでみたの。ただ、オーダーを出すときにシティポップっぽさを出して欲しいとは伝えてなくて。それでも僕の気持ちを汲んでもらった理想的な形に仕上がったんだよ。すごいよねー。
しゅーさんのアレンジは基本的に言うことなしで。でも、この曲は一つだけ修正してもらった部分があってね。それが、2番のAメロの「好き」の部分。最初は転調して音階が上がるアレンジだったんだけど、しみじみ胸の奥でつぶやくような印象を与えたくて、この「好き」にしてもらった。
フェードアウトしていくアウトロもなんとなく懐かしいような感じで良いよね。この切ない感じにたっぷり浸ってね。
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5.near
大きく見ると新生活がテーマになっているから、他の曲とテーマが被ってたりするから我ながら「なんだかなぁ…」なんて思うけど、とりあえず大学1年生(入学)がテーマ。あと裏テーマのこの曲のソロは「ストリングス」。
爽やかなバラードも好きで、好んで聴いてたりするんだけど、そういう曲って自分の持ち曲にないなーなんて思って。春がテーマのEPにぴったりじゃないかなということでこの楽曲を作りました。系統としては「イロトリドリノ」に近いかも。あの時は甘々な感じが強かったんだけど、今回は初恋の甘酸っぱさや、初々しさ、若々しさを出せたらと思って歌詞も書いたし、楽曲のオーダーもしてみたよ。
ストリングスの部分は特にこだわってて。最初に用意してもらった音色がなんだかイメージに合わなくてさ。ここの音色に近い感じで~って専門用語が分からないなりに、なるべくわかりやすいように伝えてご苦労をかけちゃったけど、イメージ通りのストリングスの音色を用意していただけました。いつもいつもありがとうございます(地面にめり込むほど土下座)。
歌詞はとにかく分かりやすく。それだけじゃなく、ドラマとかMVの映像が見えてくるような感じとか、登場人物のキャラクター像を想像してもらいやすいような歌詞にしてみた。女の子が駆けていく周りを花びらがふわっと舞って、その景色がスローモーションのようにゆっくり映って、それが女の子にときめいている感じを表せたらなぁって。
歌詞を読んだときにそうやって具体的に情景が浮かぶものって好きなのよね。ぼかして、ぼかして抽象的に歌詞を書くのも好きだし、読むのも好きなんだけど、今回は内容的にも特にストレートな表現にしたの。その方が先述した若々しさとか初恋の雰囲気が伝わるような気がして。伝わったかなぁ。
予算が間に合うようになればMVを作ってみたい楽曲の一つだったりするんだけど、その為には清き応援が必要なので、何卒よろしくお願いいたします!笑
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6.gain
基本的には、1枚の収録曲を決めて、収録順に制作を進めていくんだけど、「アオハル」については、この曲から取り組み始めました。あくまで制作スケジュールの都合だから、深い意味合いはないんだけどね。作・編曲をお願いしたRyuさんの得意分野ということもあってか、デモが上がってくるのもこれまでにない程早かった!笑
珍しく曲調はハード。だけど、希望も感じるサビの開け方が気持ちいい。
最近は具体的な指示をせずに依頼することが増えてて。今回は予めアレンジについての要望を出していたことも関係しているかもしれないけど、修正回数も少なかった。なんでも出来ちゃう人だから、色んなタイプの曲の制作を依頼してしまってるし、ふわっとしたイメージだけで依頼してしまっていたけど、アレンジャーさんに合わせた依頼の仕方が必要だな…と反省。
で、楽曲の話に戻るけど、この曲にはドラムソロもベースソロもギターソロもてんこ盛り。アウトロにストリングスのソロも入れてもらおうかなーとか考えてたけど、ちょっとゴチャゴチャしすぎるかなって思って、ストリングスのソロに関しては依頼するのは控えてみた。
さて、「gain」のテーマは、「新年度」。決して直球的なポジティブさがある歌ではないけど、僕の中では結構前向きな歌詞。ただただ何も考えずに「頑張ってこーぜー」みたいなちゃらんぽらんな前向きさは、「前向き」とは思えなくて。嫌なこととか辛いこと、良いこと悪いことを含めて、経験を積んで成長していくんだってことを、油絵と絡めて書いてみた。
油絵ってね、あまり触れたことない人が多くて。学校とかだと大体水彩絵の具じゃん?だからあまりピンとこないかもしれないね。油絵って何回も色を重ねて描くんだけど、そうすることで下地の色が活きてくるし、歌詞の通り厚みが出てくるの。1回失敗したかなと思っても、上に塗り重ねていくことで、それが無駄にならないのが油絵のいいところだと思う。それが人生にも当てはまるかな、と。
季節モノのEPシリーズの歌詞はフィクションで構成してるけど、この歌詞はわりと僕の思想を反映してる。とりあえず、難しく考えずに「こんな考えもあるのね」と思って、参考にしてもらえたらと思う。ネガティブな思想に陥りそうになったら、自分も読み返してみようっと。
▲アオハル【会場限定盤】ジャケット