
ナツメロセルフライナーノーツ
「ナツメロ」について。
前作「唯、碧く」が思いの外パーソナルな作品になってしまった為、リアルを詰め込むよりは、その真逆の創作物にしようと、取り組み始めたのが今作になります。更にコンセプトを立てて制作したいと考え、ふと「季節」をテーマにしようと思い立ち、その中でも「夏って色んな情景があるから、他の人がやっていなかったような切り口で『夏』を表現できたら面白いかも!」と思って、夏をコンセプトにしたEPを作ることにしました。
夏の1番のイメージって、「照りつける太陽の光が、海に反射してキラキラして…」なんて爽やかさかな、と勝手に思ってたんですよね。でも、「いやいや、それだけじゃないよね」と思い直して考えたわけです。個人的に夏の暑さは苦手で、夏が特別好きな季節ってわけでもないんだけど、梅雨みたいなジメジメした時期もあれば、夏祭りみたいな楽しいイベントもあるし、そういうところが魅力的だなと感じて。ただ、ベタなものをそのまま題材にするのは止めようと思ったし、歌詞にもそういったワードをそのまま書く事は禁止しました。あとは所謂「千本桜」みたいな和風のアレンジも今回は避けています。そういうアレンジの曲も好きなんですけどね。ひねくれた性格なので、「王道」というよりは「邪道」な一枚にしたいという気持ちが強かったのが、こういう作品になった要因の一つかもしれません。
様々な夏の表情があるから、楽曲の幅も出せるかな~なんて思っていましたが、とっ散らかった印象はない気がします。中盤のミディアム系の楽曲ゾーンがあるからですかね?1曲目の「SxPxY」で明るめのスタートをきったのは完全なブラフですもん。夏のポピュラリーなイメージを表現した楽曲(あくまで『曲』の話で、歌詞については全くポピュラリーのポの字もないような歌ですけど)から始まったと思ったら、2曲目にはもうバラードで
気分を落とさせるという(笑)。この構成が良いか悪いかは別として、僕としては満足しています。
歌のひとつひとつにストーリーはありますけど、時系列に沿って収録されているわけではないんですよね。曲のタイトルの頭文字を縦読みにすると「summer」になるんですけど、まずは縦読みにすることを決めて、それから6曲を収録することが決まり、その後で6曲それぞれのタイトルを決めて、タイトルに合うテーマと曲のイメージを組み合わせていった結果、こうなりました。前作はタイトルがシンメトリーで配置されているんですけど、今回もそういうことが出来ないかなと思ったわけです。はい、ギミック重視です。
あと、EPのタイトルの「ナツ」の部分は「懐かしい」と「夏」のダブルミーニングになっています。それに、内容が昔を懐かしんでいたり、メロディーがちょっと歌謡曲寄りだったりすることも、タイトルで「懐メロ」ということを表現できたら、と思ったわけです。
ちなみに、早々に告知しますと、このコンセプトEPはシリーズ化させたいと思っていて、収録曲が縦読みになること、EPのタイトルをカタカナ4文字にすることは統一していこうと決めています。さて、次はどの季節の作品になるでしょう。「ナツメロ」を聴いてお待ちいただけると嬉しいなぁ。まずは各曲のセルフライナーノーツをご覧下さい。
1.SxPxY
テーマは「夏休み前」です。テーマが夏の定番ではないものを1曲目に持ってくるというのが、僕の天邪鬼っぷりを物語っていますね。
好きな女の子の情報を得たいがために、その子の親友に近付くという最低な主人公の歌です。この主人公、自分に好意を持たせるような形で情報を得ようと企んでいるのが、どうしようもないなぁ。漫画「バクマン。」に出てくるシュージンこと高木秋人がモデルになっています。彼は主人公の真城のために見吉に近付くんですが、決して自分に好意を持たせるつもりはなかったんですよ。だから、この歌の主人公とは全然違いますけどね。無自覚な分タチが悪い気もしますけど、どっちもどっちでしょうか。
「夏」というコンセプトと共に、コンセプトも「フィクション縛り」にしているため、僕とは正反対な性格のキャラクター設定。僕には真似できないです。ある程度自分に自信がないと出来ない作戦じゃありませんか?それだけ自信があったら、僕なら直接好きな子にアプローチしますよ。でもね、この主人公、基本的に自分に自信はあるんですけど、好きな子相手にはうまく立ち回れない残念さがあるんです。そう考えると、この主人公も可愛く見えてこなくもないですが、実際に近くにいたら好きにはなれないかな?はは。
曲調は、コンセプト作の1発目となるため、しっとりしたバラードより爽快感を感じられるものにしたくて、このような曲をオーダーしました。夏の晴れ晴れとした青空をイメージできる曲調だと思います。個人的にイントロのベースソロが、主人公が作戦を考えている様子を表している気がしていて、サビもキャッチーで好きです。
ただ、サビの歌い回しが苦戦しました。聴いている分にはそこまで感じなかったことなんですけど、キーが意外と高くて。あの高さで、あのテンポのメロディーにひーひー言っていました。でも、あまり回数を重ねない歌録りを心掛けていているので、実際のところあまり時間はかけていなかったりします。もちろんレコーディング前に練習はしましたけど、時間も有限だし、繰り返し歌いすぎても喉が疲れちゃいますから。集中して、少ない回数で良いテイクを残せるように努めています。あと、部分的に録り分けるのも、自分のやり方にあっていない気がするので、基本的に頭からお尻まで一発録りです。これは他の曲にも共通することですけどね、
この曲のおかげで改めて良いスタートが切れたと思います。
2.Unbalance
テーマは「梅雨」。梅雨のじめじめした雰囲気と、不倫をしている女性を掛け合わせて描きました。当たり前ですけど、不倫って絶対に日の当たらない付き合いじゃないですか。堂々とできるわけがない。特にこの歌詞に登場するお相手の男性は、女性と会うときは必ず女性の部屋と決めてるんです、外で会ったりすると、誰かに見られて女性との関係がバレてしまう。それを恐れて女性の部屋に通っているんですよね。きっと、「いつか夏祭りに行こうね、花火も見ようね」なんて約束してたんでしょうけど、それも嘘で行く気なんてなくて。それは主人公も察していて、これ以上の関係も求めず、約束にも期待していないのに、それでも好きな気持ちを捨てきれない。この関係性に満足していないけど、諦めてしまっているというか。そんな陰鬱とした情景が浮かぶといいな、と思っています。
曲調は僕の大好きな歌謡曲っぽさを意識して制作していただきました。
古い考えかもしれませんが、「歌謡曲」って日本人のルーツだと思うんですよね。DNAに刻み込まれていると思っていて。年代性別問わず、いつの時代も愛されるものだと思うんですよね。いつだって若い世代の人も聴いているイメージですし、今もTikTokで流行ってたりするらしいですし。
話が逸れましたが、つまりは僕にも歌謡曲がルーツとしてあり、制作したいジャンルの一つでもあったわけです。ファーストアルバムに収録した「ラブストーリー」は歌謡曲のメロディーにロックなアレンジを施した楽曲でしたが、「Unbalance」はほぼほぼ歌謡曲で、そこに最近のJ-POPっぽいアレンジが加わっているように思います。
この曲、僕の湿り気のある声に合っているのではないでしょうか?こんなに暗い曲なのに、歌うのはとても楽しいんですよ。歌っていてとても気持ちがいいんです。ふふふ。
Cメロの「目を伏せても~季節に奪われて」の部分は、いただいたメロディーとは別のメロディーに変更して、より歌謡曲っぽく仕上げました。あとはギターソロが渋くてかっこよすぎたので、元々の尺から倍にしてもらったりして。個人的に持ち曲の中でも好きな曲ランキング上位におどり出る楽曲に仕上がりました。まぁ、そもそも嫌いな曲なんてないんですけどね。いやぁ、こういう曲ばかり集めたアルバムもいつかつくってみたいものです。
3.myth
ざっくり言うと「子供の頃の夏休み」がテーマになっていて、「夏休み中泊りに行った田舎で、出会った女の子に初めて恋をしたことを、振り返っている」という内容です。当時の夏の思い出を想起しているため、今の主人公の過ごしている季節については描いていませんが、同じ夏だったりします。大人の自分が過ごしている夏と、子供の頃の夏の思い出を比べて、ちょっとセンチメンタルになっている状況ですね。女々しくて僕らしい歌詞。ふふ。
歌詞は完全にフィクションではありますが、子供の頃は父の仕事の都合でそれなりに転勤があったので、その頃のことを思い出して書いてみました。「またね」って言ったまま会えなくなった子もいるし、もちろん「ばいばい」って言って別れた子もいますし。もしかしたらどこかで出くわしていたり、すれ違っている可能性もありますけど、お互い気づけないよなぁ。僕は絶対に無理です。気付けません。笑
楽曲はミディアムテンポに設定してみました。僕は初めて知ったんですけど、これスイングのリズムだそうです。ふむふむ。作編曲をされているRyuさんも仰られていましたが、最初に送っていただいたデモを聴いたとき「名曲だ!」と思いました。こういう曲を「佳曲」と言うんでしょうね。「佳曲」を今まで雰囲気でしか捉えていませんでしたけど、「上質」とか「美しい」とか、そういう要素のある曲のことみたいです。うん。これは「佳曲」です。
Ryuさんも気にしてくれていたのですが、コンパクトにまとまって、これでよかったと思います。サビ2の間に間奏を入れるか、それともCメロを追加しようかという案もありましたが、スルッとあっさり終わらせることを想定していたので、最良な形にまとまったのではないでしょうか。Ryuさんの案でフェイドアウトしていくアレンジになりましたが、物思いにふけっている感じや切なさが伝わってきてとても好きです。
4.MiSS MERMAID
バラードからミディアムテンポの楽曲が続きます。でも、「myth」とは雰囲気がガラっと変わっているので、飽きはしないと思うのですが、いかがでしょうか?この曲のテーマは歌詞にも出てくるように「熱帯夜」であり、「一夏の恋」でもあります。
なにかしらの理由があって、たまたま立ち寄った風俗店で出会った女性が、良いなと思っていた職場の同僚だった、という内容の歌詞です。ここに描かれた人たちがどんな職種かは、聴いてくれた方々の想像にお任せしますが、普段はお互い「○○さん」と苗字で呼び合っている設定です。だから出だしの一節になるんですよね。昼と夜では化粧の仕方も違うんでしょうけど、この歌詞の主人公は気付いちゃう。声じゃなくて横顔で気付くというところが、ふたりの距離感を表しているのかなと。
こうやってネタバレを聞くと、わかりやすくエロスを感じる歌詞かと思いますが、いつもと同様に下品にならないように気を配っています。風俗店で女性を見つけて複雑な心境だったけど、結局女性は人魚姫のように姿を消してしまうわけで。泡のように儚く消えていった恋の切なさを一番に伝えたかった歌ので、それがきちんと伝わればいいな、と思う次第です。
こういう歌詞なので、ジャジーな楽曲に仕上げていただきました。こういった雰囲気の楽曲も大好きで、今思いつく限りだとシドの「泣き出した女と虚無感」なんかは、カラオケでよく歌っていましたし、僕らしくて合っていると評されていました。僕に対してどんなイメージを持ってたんでしょうね?褒め言葉として受け取っていいんですよね?笑
実は今回のコンセプト作品からわざとシドのボーカルマオさんを意識して、マオさんっぽさを強調して歌っていたりするくらい、シド大好きだし、もろに影響受けてるし、嬉しい限りです。はい。何故そういう歌い方をしているかは、話せたら別の機会にでも。
1番が終わってからの間奏の長さが、時間の経過を表しているように感じますし、3分ちょっとで終わるところも、この恋の儚さが表現されているようで、素晴らしいアレンジだと思います。Aメロからサビにかけてどんどんキーが高くなっていくので、サビには苦労しました。キーを下げるとAメロが低くなりすぎてしまうしねぇ。
そうそう。タイトルはこちらも大好きなBlu-BiLLioNの楽曲から、敬意を込めて同タイトルにしました。表記は違いますけどね。メンバーさんにお会いできたら、ご本人様方にも直接説明したい。いつかお会いできたらいいなぁ。
5.Each other
ベタなテーマは避けていた部分はありますが、この曲はひねりなく「花火」と「夏祭り」を題材として選びました。その分歌詞を工夫したので、その点でも楽しんでもらえたらと思います。いや、そこまで大したことはしていないんですけどね。
この曲の歌詞は1曲目の「SxPxY」と同じ舞台設定で、同一人物も登場します。この歌詞で言う「あいつ」は、「SxPxY」の主人公のことで、「Each other」の主人公が好きになろうとしている女の子が、その時の「君」ということになります。気持ちに気付いて失恋しちゃったんですね。主人公も同様に失恋していて、それが2番で分かるような構成になっています。「お互いフラレた者同士」ということで、「お互い」という意味のこのタイトルになっています。まだ未練たっぷりの二人に、幸せな結末は訪れるのでしょうか。それが描かれるかどうかは今のところ未定です。
打ち上げ花火に対してのイメージは、個人的に「打ち上がる」」っていうより、「散っていく」イメージの方が強いんですよね。花火が散っていったあとの夜空も寂しく思えるし。だからこういうストーリーと結びつけちゃったんだと思います。
作編曲は「Unbalance」と同じくmainzさんにお願いしました。オケを聴くだけでも青春感や切なさが駆り立てられる、そんな印象を受けました。特に2回目のBメロもたまらないですね。ストリングス主体でグッときます。この曲は歌入れの際にメロディーを多少変更しました。歌謡曲寄りといいますか、説明が難しいんですけど、僕の中のイメージに近づけるために変更させていただきました。もうちょっとキャッチーさというか、サビで開けるようなメロディーにできれば良かったんですけどね。メロディーを考えるのは苦手だなってつくづく痛感しました。まぁでも、スルメ曲っぽくて嫌いじゃないです。じわじわ好きになって頂ければ。ね。
この曲も2番までしかなく、あっという間に駆け抜けていきますが、サビ終わりのアウトロのギターソロがまた最高ですね。主人公と女の子の「未練引きずってます」感が伝わるし、何より単純にメロディーが好き。
6.ruminate
記念すべき(?)初のコンセプトEPを締めくくるのは「熟考する」や、「思いを巡らす」という意味を持つ「ruminate」をタイトルにした、切ない疾走系ナンバーです。
最初に頂いたデモではイントロが長かったり、楽曲のアクセントとなるようなアレンジが添えられていましたが、「あまり緩急をつけずに突っ切っていく感じがいいです!」という僕のリクエストにRyuさんが応えてくれました。タイトルの意味とは裏腹に、そういったアレンジにしていただいたのは、いくつか理由があって。
Cメロの『まくった袖をおろして/流れる空を見てた』という歌詞は、考えていても次の季節が来ていることを現していたり、「女心と秋の空」と昔から例えられるように、女心は移り気だと言われるけれど、「男だってあっという間に心変わりするじゃないか」なんて、主人公が考えている様子を現しているからだったりします。
あとは単純に、今作は勢いのあるストレートな楽曲で締めたかったからですけどね。
さて、この曲のテーマは「七夕」。歌詞は7月7日のリアルタイムの話ではないですが、1年に1回しか会えない織姫と彦星のように、1年に1回、記念日くらいは会いたい、ふたりのように相手を想い続けられたらいいのに、と主人公が嘆いている状態です。そんな感じで最初は未練があったわけですが、さよならを決意するまでのストーリーとなっております。特に難しい言い回しはしていないため、とてもわかりやすい歌詞になったと思っていますが、いかがでしょうか?なんだか、一昔、ふた昔前はやたらと「会いたい」を主張する歌が多かった気がするんですけど、最近ではめっきり聞かなくなったなーと思って、サビのフレーズに取り入れてみました。「わかりやすいけど、個性があって、なおかつ遊び心がある」そんな歌詞になって、我ながら上出来だと満足しています。
こういうタイプの楽曲は、よりライブで披露したい気持ちになりますし、出来ればバンドで表現したくなりますね。この曲でも90年代っぽい音を表現したシンセ音も入っていて、僕の曲はバンドサウンド以外の音色も重要だったりするので、マニュピレーターさんがいてくれたら最高だな…なんて思いますね。そもそも僕以外のメンバーはいませんので、サポートメンバー及びメンバーは随時募集中です。ご興味のある方はDM下さい!笑